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街の夜間照明が昆虫の冬眠を妨げていることを証明

                        プレスリリースはこちらから
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆7/16 オプトロニクスオンライン
◆7/20 大学ジャーナルオンライン
◆9/20 Yahoo!ニュース
◆9/21 産経新聞、北海道新聞、東奥日報、岩手日報、岐阜新聞、中日新聞
     大阪日日新聞、宮崎日日新聞、佐賀新聞、琉球新報、SankeiBiz
◆9/22 中国新聞
◆9/24 日本経済新聞(夕)
◆9/27 Yahoo!ニュース、朝日新聞(夕)、神戸新聞(夕)
◆9/30 河北新報(夕)
◆10/2 新潟日報(夕)
◆10/5 FNNプライムオンライン
◆10/6 日経産業新聞
◆10/12 山梨日日新聞
◆11/19 北海道新聞(夕)

本研究のポイント

◇都市環境に生息する昆虫は、都市の夜間照明の影響で冬眠が妨害されていること
都市の温暖化(ヒートアイランド)の影響で冬眠に入る時期が遅くなっていることを明らかに

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概要

 大阪市立大学大学院 理学研究科の後藤 慎介教授、摂南大学 理工学部生命科学科の向井 歩特任助教らの研究グループは、「夜間照明」が都市に生息する昆虫の冬眠を妨げていることを明らかにしました。
 本研究グループは、取り扱いが容易で、都市に生息し、明瞭な季節性を示すハエの一種を実験対象種として、都市環境下での冬眠開始時期や冬眠に入る個体の割合を調べました。この種は、多くの昆虫と同じように夜の長さ(暗い時間の長さ)が長くなることで秋の到来を知り、冬眠に入ります。そこで本研究グループは都市の夜の明るさに惑わされると、「冬眠に入る時期」を見誤るのではないかとの仮説を立てました。
実験の結果、0.1ルクス(月明り程度)あるいはそれよりも低い照度の夜間照明にさらされ続けると、冬眠が妨げられることがわかりました。さらに、夜間照明の影響が大きい都市環境下では、本来冬眠に入る時期(10月~11月)になってもほとんどの個体が冬眠しないことが判明しました。また夜間照明が少ない都市環境下であれば冬眠に入ることはできるものの、冬眠開始時期は自然豊かな郊外よりも遅く、都市の温暖化(ヒートアイランド)にも影響を受けることがわかりました。
 今後は、別の昆虫を対象種とする実験や、都市のさまざまな環境での実験、他の都市での実験を進め、私たちの文化的な生活環境が他の生物にどの程度影響を与えているのか、また変わりゆく環境に生物はどのようなプロセスで適応していくのかを明らかにします。
本研究の成果は、国際学術誌『Royal Society Open Science』(7月14日)にオンライン掲載されました。

研究の背景

 都市環境は、自然豊かな郊外の環境とは大きく異なります。特に、気温の上昇と夜間照度の上昇は都市に特有です。多くの昆虫は、1日の中の暗い時間の長さを読み取って冬眠(休眠)に入る時期を決定するため、都市における温暖化と夜間照度の上昇が昆虫の季節性をかく乱することは十分考えられるものの、過去、実験的に示した例はほとんどありません。今回私たちは、都市環境が昆虫の季節性に及ぼす影響を明らかにするため、明瞭な季節性を示すナミニクバエ(ハエ目ニクバエ科)を対象種として実験を行いました。

研究の内容

実験は室内と野外で行いました。

室内実験

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図1:夜間の照度が冬眠する個体の
割合に及ぼす影響

? 秋の環境条件にさまざまな照度の夜間照明を組み合わせた飼育環境を準備し、冬眠に入る個体の割合を調べました。都市での気温上昇の影響を調べるため、2つの温度(20 ℃および15 ℃)を用いました。その結果、夜間照度の上昇に伴い、冬眠に入る個体の割合が低下しました(図1)。このことより夜間照度の上昇が冬眠を阻害することがわかります。また、20 ℃では、15 ℃に比べて冬眠に入る個体の割合が低下しました。即ち、高い温度は夜間照度上昇による冬眠阻害効果を促進すると考えられます。

野外実験

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図2:都市の2地点(夜間照明が多い
地点と少ない地点)での冬眠に入る
時期の比較

 野外実験は都市の中でも夜間照明が少なく夜が暗い地点と、夜間照明が多く夜が明るい地点の2地点で行いました。夜間照明が少ない地点の夜の明るさは約0.2ルクスで、これは晴れた日の満月の夜の明るさに相当します。一方、夜間照明が多い地点の夜の明るさは約6ルクスで、これは夜間の住宅街や道路の明るさに相当します。夜間照明が少ない地点では、多くの個体が10~11月に冬眠に入りました。一方、夜間照明が多い地点では、11月を過ぎてもほとんどの個体が冬眠に入りませんでした(図2)。私たちのくらしを支える夜間照明によって、昆虫の季節性がかく乱されていることが考えられます。

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図3:都市と郊外での冬眠に入る
時期の比較

 さらに、都市と郊外を比較しました。

 都市で夜間照明がある地点(夜間照度は約0.2ルクス)と、郊外で夜間照明のない地点(夜間照度はほぼ0ルクス)を選びました。郊外では冬眠に入る個体の割合が9月下旬から増加したのに対し、都市では10月中旬から増加しました(図3)。日平均気温は都市の方が約2.5 ℃高く、この都市温暖化(ヒートアイランド)が都市での「冬眠開始時期の遅れ」をもたらしたと考えられます。

今後の展開について

 今回、都市と郊外での飼育実験によって、都市環境が昆虫の季節性に及ぼす影響の一端が明らかになりました。しかしながら、都市環境は複雑で、近傍地域であっても夜間照度や都市温暖化の程度が異なります。また、都市にも多くの昆虫種が生息しており、ナミニクバエ一種の知見だけでは、都市環境が昆虫に及ぼす影響を解明するには不十分です。
 今後は、今回とは異なる条件の都市環境での調査や、広い昆虫種を対象とした実験を行い、昆虫それぞれが都市環境にどの程度適応しているのか、どうやって適応しているのかを明らかにしていきます。このような研究を通して、私たちの文化的な生活が他の生物にどの程度の影響を与えているのか、解明していきます。
 昆虫たちにとって、都市環境はこれまでの進化の歴史の中で出会うことのなかった新しい環境のため、都市は進化の実験場とも言えます。このような研究を通して、生物が新規の環境に適応するプロセスを明らかにしていきます。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Royal Society Open Science
【論 文 名】 Urban warming and artificial light alter dormancy in the flesh fly
【著??? 者】 Mukai Ayumu, Yamaguchi Koki, Goto Shin
【掲載URL】https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.210866

資金情報

?本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
?大阪市立大学戦略的研究:基盤研究(2015-2017)、研究代表:後藤慎介
?科研費:基盤研究(B)、研究代表:後藤慎介

研究者からのコメント

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左より後藤 慎介教授(大阪市立大学)
向井 歩特任助教(摂南大学)

 夜間照明は、私たちの生活に安全?安心をもたらします。しかし、その夜の明るさは昆虫の生活に大きな影響を与えているようです。昆虫を含めた動物たちと人の両方に優しい都市環境を考えていく必要があります。